東京高等裁判所 昭和24年(新を)1229号 判決 1949年11月19日
被告人
西村正治
主文
原判決を破棄する。
本件を東京地方裁判所に差戻す。
理由
弁護人靑山新太郞の控訴趣意第一点について。
記録及び原裁判所で取調べた証拠に現われた事実を調査するに原審が本件被告人の犯行を認定した証拠として引用する証人金井久治外三名の証人の証言によつては未だ被告人が結束淸の外套の外側右ポケツト在中の同人所有金品の窃取に着手未遂であることを確認するに十分でない。本件のような窃盜(掏摸)の着手ありとするには少くも人のポケツト内に犯人が手を挿入したが何等窃取せず既遂に至らなかつたことを確認しうる証拠を要するものと解しなければならぬ。然るに被害者結束は全然被告人が自分のポケツトに手を入れたということは氣づかない旨証言しておるしその他の三人の証人も結局ポケツトに被告人が手を挿入したことを目撃した者はないのであるから仮令肩の下り具合で手を入れる姿をとつたとしてもそれはただ着手寸前の準備行爲に過ぎないもので未だ掏摸着手があつたと認めることはできない。然るに右のような証拠で本件窃盜未遂を認定した原判決には事実誤認又は理由不備の違法があると認められるから更に審理を盡すため原判決を破棄し本件を原裁判所に差戻すべきものとする。論旨理由あるものであるから爾余の論旨に対しては説明を省略する。